女王ヴィアシスティナ、シーズン7度目のG1制覇!
オーストラリア・シドニーのロイヤルランドウィック競馬場を舞台に繰り広げられた2025年クイーンエリザベスステークス(G1)。芝2000メートルの頂上決戦は、現オーストラリア最強馬との呼び声高いヴィアシスティナが圧巻のパフォーマンスで制圧し、競馬史に新たな1ページを刻みました。
この勝利は彼女にとって通算9度目のG1制覇であると同時に、2024-25オーストラリア競馬シーズンにおける7度目のG1タイトルとなり、これはかの伝説的名牝ウィンクスが達成したシーズン最多G1勝利記録に並ぶ歴史的快挙です。
レース概要
レース名 | クイーンエリザベスステークス(G1) | ||||
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開催日 | 2025年4月12日(土) | 天候 | 曇り時々雨 | 馬場状態 | 稍重(Good 4) |
開催場所 | ロイヤルランドウィック競馬場 | 距離 | 芝2000m | 勝ちタイム | 2:00.41 |
出走頭数 | 13頭 | 取消 | ファンガール、フルカウントフェリシア |
レース結果
着順 | 枠 | 馬番 | 馬名 | 性齢 | 斤量 | 騎手 | タイム | 着差 | 単勝 | 予想 | 調教師 |
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1 | 7 | 12 | ヴィアシスティナ | 牝7 | 57 | J・マクドナルド | 2:00.41 | - | 2.0 | ◎ | C・ウォーラー |
2 | 1 | 1 | ドバイオナー | セ7 | 59 | T・マーカンド | - | 1.75 | 8.0 | 〇 | W・ハガス |
3 | 3 | 5 | トムキトゥン | セ4 | 59 | B・メルハム | - | 0.75 | 15.0 | ▲ | J・カミングス |
4 | 4 | 8 | リンダーマン | セ5 | 59 | N・ローウィラー | - | 0.75 | 31.0 | △ | C・ウォーラー |
5 | 3 | 4 | チェオルウルフ | セ4 | 59 | C・スコフィールド | - | 0.75 | 14.0 | J・プライド | |
6 | 2 | 2 | ローシャムパーク | 牡6 | 59 | C・ルメール | - | 0.5 | 9.0 | ☆ | 田中 博康 |
7 | 4 | 7 | バッカルー | セ6 | 59 | T・ベリー | - | アタマ | 14.0 | C・ウォーラー | |
8 | 4 | 9 | フォークナーパーク | セ5 | 59 | T・シラー | - | 1 | 26.0 | ||
9 | 5 | 10 | ミドルアース | 牡4 | 59 | J・メルハム | - | 0.5 | 71.0 | ||
10 | 3 | 6 | ヴォバン | セ7 | 59 | T・クラーク | - | 3.25 | 21.0 | ||
11 | 6 | 13 | ライトインファントリーマン | セ6 | 59 | E・ブラウン | - | クビ | 18.0 | C.マー | |
12 | 7 | 14 | ディナイナレッジ | 牝7 | 57 | M・ザーラ | - | 5.25 | 26.0 | ||
13 | 6 | 11 | ジオグリフ | 牡6 | 59 | D・レーン | - | 8.75 | 71.0 | 注 | 木村 哲也 |
レース展開
この勝利は、ヴィアシスティナにとって2024-25オーストラリア競馬シーズン(8月~翌年7月)における7つ目のG1タイトルとなりました。これは、2018-19シーズンに伝説的名牝ウィンクスが樹立したシーズン最多G1勝利記録に並ぶ、歴史的な偉業です。
今シーズンの彼女のG1勝利には、ランヴェットステークス(連覇)、ウィンクスステークス、ターンブルステークス、コックスプレート、チャンピオンズステークス、ヴェリーエレガントステークスが含まれ、そして今回のクイーンエリザベスステークス制覇が加わりました。
勝ち馬分析:ヴィアシスティナ
レースパフォーマンス
単勝2.0倍の圧倒的な1番人気に支持されたヴィアシスティナ。レースでは、スタート後、インコースの中団後方、一時は最後方近くまでポジションを下げる形となりました。直線に向くまでインコースでじっと我慢し、目の前には「馬の壁」が立ちはだかる厳しい状況でしたが、鞍上のジェームズ・マクドナルド騎手は冷静でした。
直線半ば、前を行く馬たちの間にわずかなスペースが開くと、そこを「切り裂くように」突き抜け、ウォーラー師が「彼女がスパートすると、その加速力は確かだ」と評する爆発的な末脚を披露。マクドナルド騎手が「バンと行った」と表現した通りの鋭い伸びで一気に先頭に立ち、追いすがるドバイオナーを寄せ付けませんでした。
関係者コメント
「クリス(ウォーラー調教師)は毎回、彼女を完璧に仕上げてくれる。コックスプレートでもそうだったし、クイーンエリザベスでもそうだ」
「今の彼女は必要なことしかしないタイプなんだ。でも、彼女は圧倒的だった。ギャップを見つけてからは、そこを切り裂いて突き抜けた」
「ジェームズは成熟し続けており、パニックにならない。それが大レースを勝つ鍵だ」
「良い馬とチャンピオンの違いを示してくれた」
「我々はまだ彼女のことを学んでいる最中だ。彼女は競走生活の晩年に入っている。本当に、彼女がどれほど優れているか、恐ろしいほどだ」
血統解説
ヴィアシスティナ(Via Sistina) | 生産:ランドリーコテージスタッドファーム(アイルランド) | |
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父:ファストネットロック (Fastnet Rock) オーストラリア産 |
父父:デインヒル (Danehill) | 世界的名種牡馬。産駒はスピードと力強さを兼ね備え、オーストラリア国内だけでなく、ヨーロッパでも多数のG1ウィナーを輩出。 |
父母:ピカデリーサーカス (Piccadilly Circus) | 現役時代にG1を勝利し、種牡馬入り後はオーストラリアで2度のリーディングサイアーに輝くなど、大成功を収めました。 | |
母:ナイ (Nigh) アイルランド産 |
母父:ガリレオ (Galileo) | 歴史的名種牡馬サドラーズウェルズの最高傑作。産駒は卓越した競走能力、特に中距離から長距離におけるスタミナと底力に優れ、数々のクラシックレースを制覇。 |
母母:ネイティヴフォース (Native Force) | 英国のG1スプリントレースであるナンソープステークスとゴールデンジュビリーステークスを制した快速馬キングスゲイトネイティヴを産出。 |
ヴィアシスティナの血統は、父系から受け継いだデインヒル系のスピードと、母父ガリレオから受け継いだサドラーズウェルズ系のスタミナとクラス、そして母系に流れるスピードの血が見事に融合した、まさにエリートと呼ぶにふさわしい構成です。この優れた遺伝的背景が、彼女を芝の中距離路線、特に2000メートル前後で絶対的な強さを発揮する競走馬へと導いたと言えるでしょう。
ファストネットロックとガリレオという、南北両半球を代表する種牡馬の組み合わせは「黄金配合」とも呼ばれ、これまでに10頭ものG1ウィナーを輩出しています。この成功の要因は、ファストネットロックが伝えるオーストラリア的なスピードとパワー、そしてガリレオが伝えるヨーロッパ的なクラス(格)とスタミナが見事に融合することにあると考えられています。
上位入線馬分析
前年の覇者であり、英国から遠征してきた実力馬。鞍上のトム・マーカンド騎手は「敗れはしたが、素晴らしい走りだった」と健闘を称えつつも、「ひどい(horrible)道中だった」とコメント。
道中の不利(ローシャムパークとの接触の可能性も示唆される)がなければ結果は違っていたかもしれない、と悔しさを滲ませました。ウォーラー調教師も、前走タンクレッドステークス(G1・2400m)からの距離短縮が、ヴィアシスティナの瞬発力の前では不利に働いた可能性を指摘しています。勝ち馬から1.75馬身差でのゴールでした。
前週のドンカスターマイル(G1)からの連闘という厳しいローテーションながら、3着に奮闘。鞍上のベン・メルハム騎手は「彼の走りには感激している。スーパースターたち相手によく走った。素晴らしい努力だ」と最大級の賛辞を送りました。
勝ち馬から2.5馬身差。地元の4歳馬として、世代レベルの高さとタフさを見せつけました。
勝ち馬と同じクリス・ウォーラー厩舎所属馬。ナッシュ・ローウィラー騎手は「非常に勇敢だった。良い位置につけ、確かなペースでレースを進め、リードを活かそうとした。誇りに思う走りだった」とコメント。勝ち馬から3.28馬身差。
チャド・スコフィールド騎手は「外枠から多くの距離をロスしながらも、勇敢だったと思う」と評価。勝ち馬から4.12馬身差。
日本からの挑戦
結果: 6着。勝ち馬から4.62馬身差。単勝オッズ9.0倍。
騎手: クリストフ・ルメール
調教師: 田中博康
レース内容: ルメール騎手はレース後、「とても良いレースだった。ドバイオナーの後ろにつけたが、直線で加速できなかった」とコメント。道中、ドバイオナーとの接触があった可能性も指摘されています。
背景: 今回が3度目の海外遠征。前走は有馬記念7着でした。
結果: 13着(最下位)。勝ち馬から17.37馬身差。単勝オッズ71.0倍。
騎手: ダミアン・レーン
調教師: 木村哲也
レース内容: レーン騎手はドンカスターマイル後に「運悪く出遅れてしまい、大外枠からではレースに参加できなかった」とコメントしており、クイーンエリザベスステークス後には「シドニーでの2走とも、彼本来の走りではなかった。残念ながら、ベストの状態ではなかった」と、本調子でなかったことを示唆しました。
背景: わずか1週間前のドンカスターマイル(G1・1600m)で18着に敗れた直後の連闘でした。今回が5度目の海外遠征でした。
クイーンエリザベスステークスについて
クイーンエリザベスステークスは、オーストラリア競馬の中でも特に長い歴史と格式を誇るレースです。その起源は1851年にまで遡り、当時の英国女王ヴィクトリア女王に敬意を表して『クイーンズプレート』(Queen's Plate)として創設されました。
1954年にエリザベス2世女王のオーストラリア訪問を記念して現在の『クイーンエリザベスステークス』へと改称され、現在に至ります。創設当初は約3マイル(約4800メートル)という長距離で施行されていましたが、時代の変遷とともに距離は短縮され、1986年からは現在と同じ芝2000メートルで行われるようになりました。
現在では、G1格付けを持つ最高峰の馬齢重量戦(Weight for Age)として、シドニーの秋競馬シリーズ「ザ・チャンピオンシップス」の2日目を飾るメインレースとしての地位を確立しています。賞金総額も大幅に増額され、2025年には500万オーストラリアドル(約4億8000万円)に達し、オーストラリアで最も賞金が高い馬齢重量戦の一つとなっています。
レースは、ディナイナレッジ(14番)がハナを切り、外からライトインファントリーマン(13番)がこれに並びかける形で、比較的しっかりとしたペースで流れました。人気のヴィアシスティナ(12番)は内枠からスタートし、道中は中団より後方のインコースでじっくりと脚を溜める展開を選択。一方、前年の覇者ドバイオナー(1番)は道中で日本のローシャムパーク(2番)と接触する場面も見られるなど、スムーズさを欠く場面がありました。
4コーナー手前でリンダーマン(8番)が先頭に立つと、直線入口では各馬が横に広がる展開。インで機を窺っていたヴィアシスティナは、鞍上のジェームズ・マクドナルド騎手の巧みなリードで馬群の間を縫うように進路を確保すると、一気に加速。残り200メートル付近で先頭に躍り出ると、外から追い込んできたドバイオナー、そしてドンカスターマイルからの連闘で奮闘したトムキトゥン(5番)の追撃を危なげなく振り切り、ゴール板を駆け抜けました。